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  アートエッセイ評伝創作エロス

 

目次

「天井桟敷の人々」

「視線のエロス」

強靱なリアリスト

「黄金の指」

アリス・ガーステンバーグのこと

アディユ−、シモ−ヌ

アリダ・ヴァリ追想

「オーメン」回想

ジャスミンの花開く

オペラ歌手 松島理恵

ピンナップ

セザンヌの石ころ

小林正治

サムライ・ニヒリズム
――法
月弦之丞と眠狂四郎――

エクソシスト

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ショパンを聴く

 

 


 ■ 小林正治 Date: 2005-09-15 (Thu) 

 小林正治は、ほとんどすべての主題を、女のヌードと海と空と樹々、ときには異国の城砦に選んでいる。あきらかにエグゾティックな主題だが、私はこれをエグゾテイシズムと呼びならわすことを避ける。
 女のヌードは、彼においてはしばしば虚空に妖しく重なりあう影をともなう。そのトロンプルイユめいた虚実の重なりに、いわばエロティスムを顕現させ、それに惹かれる私たちのまなざしを支配する。
 さまざまな姿態を見せている女たち。かつてはそのほとんどが顔をもたなかった。一瞬の動きのなかに、顔をもたない女たちの純潔なエロスが輝き出す。
 そして、ある時期から小林正治の女たちは顔を見せる。ほとんどマキアージュというべき顔を。その顔は、ヴィザージュ(容貌)というよりマキアージュ(化粧)というべきもので、どこか倦怠を秘め、しかも可憐で、いやしさはみじんもない。彼女たちのヴィザージュは、魂のなかに折りこまれているに違いない。
 たとえば海岸に、しどけない姿態を見せている女がいる。そしてはるかな地平と、波と、雲と。そこに時間がひっそりと息づいている。その時間は、一瞬一瞬、見る人の内部からふきこぼれて永劫の虚無のなかに堕ちてゆく。そして、私たちは、そこに遠近法を見るのではない。むしろ、視差を見ることになる。めくるめく色彩の視差を。
 時間や空間の既成概念をひっくり返すような絵のなかに、小林正治のつよい認識とそれをささえる愛がたゆたっている。


          

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イラスト 中田耕治

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