自分の人生をふり返って、いちばん不思議な気がするのは、ほとんど半生を神田周辺で過ごしたことだろう。大学で教えたほか、いろいろな機会に教壇に立ったが、そういう偶然がなかったら、もっと違った人生を過ごしたと思っている。学校で何かを教えることなど考えもしなかったし、未決定の将来にそうした運命が待っていると知ったら、きっと逃げ出したに違いない。他人にものを教えるなどもっとも苦手だった。大学で勉強していた頃だって教職課程など見向きもしなかった。その私が人生の半分を神田界隈で過ごしたことは、ほとんど象徴的な意味をもっている。自分でも希望していない道を選んだという意味で。
後悔はしないが、実につまらない人生の選択だったと思う。年をとったおかげで、うんざりするような人生を過ごしてきたことに気がつく。