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■ 私の好きな短歌 |
Date: 2006-08-27 (Sun) |
わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく 山川 登美子 (明治41年秋詠。山川 登美子は翌年4月15日に亡くなっている)
すきまもる風のつめたさ別れたる後のおもひの身を切るごとし 藤蔭 静樹 (永井 荷風との別れを歌ったもの。)
やりばなき思いのゆえに、ぴゅうぴゅうと 馬をしばけり。うま怒らねば 釈 超空
知らされて山桜散る空なれば過ぎゆく風を視るほかはなし 立原 正秋
今生のつひのわかれを告げあひぬうつろに迫る時のしづもり 斉藤 茂吉
はらはらと黄の冬ばらの崩れ去るかりそめならぬことの如くに 窪田 空穂
耳をすませばしららしららと麦の穂は音に出でつつ輝きて・る 矢代 東村
起きて居て酒欲る心止み難し路にぬかりつつ酒買いに行けり 和田 山蘭
拒まざりしこともかなしき夕まぐれくもりしままに日のくれてゆく 相良 絹代
身熱もきみにあずけてゆたゆたと夏の理由にのみこまれいる 山西 雅子
忘れてはなほあるものと思ひつつなが名を呼びて今日も暮らしつ 武島又次郎 (号・羽衣,夫人とな子,昭和27没,歌集『美しき道』29年)
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 釈 超空
牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ 木下 利玄
校正などして一日を過すこと病みてわが得たるよろこびのひとつ 木俣 修
山頂は、今、霧の中。友一人葬りて細き道をのぼれば 阿部 正路
君の住む町までの闇深ぶかと吸わるる如く雨は降りおり
影となりむしろ確かにわが内に棲むその人よ 別離のあとに 小島 ゆかり
接吻(くちづけ)はかなしかりけり森閑と孤独の昼はながれていたり 増田 勝子
(84.3.「すばる」)
わが愛するものに語らん樫の木に日が当り視よ、冬すでに過ぐ 前田 透
陽が差せば椿の葉みなてらてらと輝き初めぬ生きざらめやも 大野 誠夫
(84.3.「短歌」絶筆)
かなしみの突きささる鏡みえながら空洞(うつろ)にしろき水流れいつ 大野 とくよ
(大野 とくよ歌集・芸風書院・84年)
蝶死にしあとをたづさへ山姥と行けるものあり春のたそがれ 杉田 福
(処女歌集「鳥の影」 雁書房・84年)
(さて俺は何をしたいか)火の上で身欠鰊が脂を滴らす 小笠原和幸
雨に咲く紫陽花よりも泣きやすき汝ゆゑにこそ癒えて生きたし
かなしみて夜霧の中に入りて行く背を目守(まも)りつつ送るほかなく
ことのほか脆き女體と知りしとき夜霧は雨に變りいたらむ
(この三首、歌集「壮年」より。作者は84年8月、死去。37歳)
母の齢はるかに越えて結う髪や流離に向かう朝のごときか
生き急ぐほどの世ならじ茶の花のおくれ咲きなる白きほろほろ
さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり 馬場 あき子
追いつめてゆく想念の一角の闇に見えざる樹樹はたちをり 中山 明(84)
てのひらにわずか余れる乳房の静脈透きて春は闌けゆく 入野 早代子
己が死に枕ぬらして目覚むればはつかに匂ふ闇の水仙 (すばる、85・6月号)
(二首、歌集「散華」85年より。歌歴3年という。)
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