五木寛之は、私にとってはいつも注目すべき作家だった。もともと私は五木寛之とはまるで違ったタイプのもの書きなので、そうした違いから五木寛之を理解するしかない。彼の作品を読む。そのとき、彼はいつも私にむけて語りかけているようだった。きみは、どうしてこれに思いおよばなかったのか、と。私はいつも考えたものだ。きみは、どうしてこれに思いいたったのか、と。私の作家論の主題はこれに収斂する。
批評家として書きたかったことを楽しく書いただけに過ぎないが、今の私は、かつて自分が信じていた文学が死滅してゆく姿を見届けているような気がする。『五木寛之論』はそうした文学の衰弱に対するせいいっぱいの反措定のつもりで書いた。
――中田耕治（『五木寛之論』あとがき）
