田村 美佐子

 先生との出会いは1990年代前半、神保町のバベル翻訳学校の教室でした。それから場所や形をさまざまに変えながら、先生と、そして先生が繋いでくださった仲間たちと、人生の半分以上の時間をともに過ごさせていただき、自分ひとりでは絶対にできなかった色とりどりの経験をさせていただきました。翻訳ばかりでなく創作をしたり、絵を描いたり、舞台の上でお芝居をしたり、映画館や美術展に連れていっていただいたり。宝物みたいな日々でした。
 教室で、そして授業のあとに先生を囲んでお茶を飲みながら、わたしの知識ではとても追いつかない、先生の広大で豊潤なお話を伺うたびに、わたしの中のちいさな芽が恵みの雨と柔らかな日射しを浴びて、すこしずつ枝を伸ばし葉を茂らせていき、ゆらゆらと頼りなく風に揺らぎながらも、このごろようやく、一本の木としてなんとか地面に頑張って立っていられるまでになったかな? と思います。
 先生と、そして先生が出会わせてくださった素晴らしい仲間たちとの日々がなければ、わたしは翻訳を続けていられたかどうかもわからないし、もし続けられていたとしても、その世界はきっといまのようにカラフルなものではなく、モノクロームな世界だったにちがいありません。先生にいただいた沢山のお言葉は、これまでもこれからも、わたしの大切な道しるべです。
 先生、素晴らしい時間をありがとうございました。

 わたしたちと過ごした時間を、先生も「ああ、楽しかったなあ」って思ってくださっていたら嬉しいなあ。

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