宮﨑 真紀

 初めて授業に出たとき、ご多分に漏れず「女子大の優等生の訳」と言われてガーンとなってから幾星霜、曲がりなりにも翻訳を生業とできているのは、何よりも先生のおかげです。訳書をお送りすると、いつもいただく厳しくも温かい言葉に、どれだけ励まされてきたか。わたしなど弟子の末席にしがみついている程度で、何の貢献もできず、こうして先生についての一文を投稿するにしても恐縮するばかりなのですが、十一月に先生に最後にお会いしたときに、「翻訳だけでなく、スペインに関してなど何か文章を書いてみなさい」と勧められ、わたしにいったい何が書けるのか、ただおろおろと考える日々です。

 訳者あとがきを書くだけでも毎回呻吟し、できあがったものを見ると絶望しては書き直し、あとは野となれ山となれ、とほとんど自棄になってえいやっと送信ボタンを押す。こうして書いていても、「君の書くものはつまらん!」と一蹴されそうな凡庸さ。書きたいことも湧いてこない。そうだ、そういえば自分は若い頃、物書きになりたかった、そんな記憶が甦るけれども、あんまり自分が空っぽで創作意欲がどこにも見当たらないので、もしかすると、よその言葉で書かれたきちんとした土台を与えられて、それを日本語にすることならできるかもしれない、そんな浅はかな気持ちから翻訳をやってみようと思い立ったのだったのではなかったか……。

 先生の言葉を噛みしめて、きっとテーマ探しは続くのだろう。スペインのことは専門家が大勢いるので、何か新しい切り口を見つけてみたいと思います。先生、今まで本当にどうもありがとうございました。

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