今日という日は、昨日という日をほとんど想像もできないものにしてしまう。
どうかすると、まるっきり滑稽なものにしてしまうこともある。
ヴァレリーのことば。
夜になったら、笑うことにしよう。
5
女について。たいていの男はのぼせあがる。
「私たちの女性にたいするギャラントリは、ほかのいかなる国の何ものにも較べることができない」
とモーパッサンはいった。
よくもぬかしやがったな。
4
江戸の女……。
音もなく襖が開くと、敷居ぎわに中腰にかがんで、眼もあやな女があらわれる。
思わずゴクリと生唾をのむ客の前に、すっと両膝をついて、三ツ指。ぬめぬめと濡れたようなつぶし島田の頭をさげて……。
子どもの頃、私の住んでいた本所、小梅町に、そんな「江戸の女」がまだ生きていた。
3
うわさ。
私は他人の噂をしない。わるい噂を聞いても、自分のところでとどめておく。めずらしい噂はしっかり記憶しておくが、小説に書くこともない。
わるい噂は、いくらでも尾ひれがついてひろがってゆく。おもしろい。だが、おもしろいから書かない。おもしろくないからだ。
2
イザベル・アジャーニの「カミーユ」や「アデルの恋の物語」。はげしい狂気に憑かれた愛の傷み。
私は「巴里祭」のアナベラが好きだが、ヒロインとしては「地の果てを行く」の「アイシャ」をあげよう。異国の女のはげしい愛の姿を見せてくれたから。