谷崎潤一郎は、戦後(昭和31~32年)に『幼少時代』を書く。
私は今度、自分の記憶に存する限りの一番古い出来事から書いて見ようと考へて筆を執り始めたのであるが、そのつもりで遠い昔の思ひ出をだんだんに辿って行くと、もう完全に忘却の彼方に埋没してゐた筈のことが順々に蘇生(よみがへ)って来て、よくもこんなこと迄が頭の隅に残ってゐたものだと、我ながら驚きを感じてゐる。そして、その頃のことが次々に浮んで来るに従って、それを逃がさず書き留めて行くことに限りない興味を覚えつつある。
もともと記憶のいい作家だっただけに、『幼少時代』は戦後の代表作になっている。
私も谷崎のひそみにならって、自分の記憶に存する限りのいちばん古いできごとを思い出そうとしてみたが、ほとんど完全に忘却の彼方に埋没している。
身のほど知らず。おまけにそろそろ認知症かも知れないなあ。