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「SMASH」のオープニングは――無名の女優、「カレン」(キャサリン・マクフィー)がオーディションで、「虹の彼方に」を歌う。映画「オズの魔法使い」(1939年)でジュデイ・ガーランドが歌っていたテーマ曲。
このオープニング、時間としてはわずかに35秒。日本のドラマだとはるかに時間がかかるだろう。スピーデイーな展開で、この女優はオーディションに落ちる。
「カレン」の歌が「虹の彼方に」なので、まるで「ドロシー」のように、場違い(crude)、不慣れ(awkwardness)、不相応(unsuitable)、しかも、虹の彼方をめざしている「カレン」の子どもじみた(childish,immature)希望などがわかる。
(あとでわかるのだが)「カレン」は田舎の高校で「金のタマゴ」コンクールに優勝したこと、「ドロシー」がカンザスの田舎娘だったように、「カレン」がアイオワのカントリーガールなのだということを一瞬に理解する。
つぎに、オーディションを受ける女優は、おなじように無名の女優だが、実力派の「アイヴィー」(ミーガン・ヒルティー)。しかし、「アイヴィー」も落ちてしまう。この導入部(人物紹介)が1分10秒。
これだけで、「SMASH」のフォーカシング(焦点)がわかる。
「カレン」は、キャサリン・マクフィー。
すっきりした体型で美貌だが、いかにもカントリー・ガールというタイプ。
細おもての美女。顔の輪郭は、「お熱いのがお好き」の頃のマリリンに似ている。ほかのスターの誰にも似ていないのだが――私が思い浮かべたのは、サイレント映画のスターレット、ヴァレリー・ファニング(注)。
「アイヴィー」はミーガン・ヒルティー。
みるからにグラマラスでセクシイな女性。実際には、ブロードウェイで成功している有名女優。「SMASH」では、無名の女優でレヴューのアンサンブル(コーラスガール)。ミュージカルの主役(パート)をねらっているのだが、なかなかチャンスにめぐまれない。
ふたりは何から何まで対照的で、「カレン」の無邪気さ、純粋さ。「アイヴィー」は野心的で、「比類ない彼女」Uncomparable She というエロス、自分の前にあらわれた男に躊躇することなくからだを投げ出す女。
オーディションに合格した夜、「カレン」は、演出家「デレク」に呼び出される。「デレク」は演出だけでなくコレオグラファー(振り付け)。「カレン」は(誘惑しようとする)「デレク」から逃げるが、「アイヴィー」はおなじようにサシで稽古をつけようとする「デレク」と寝てしまう。
(注)VALERIE FANNING (below) was a typical silent starlet (though the term had not yet been coined) whose picture was taken in the hope that stardom was just around the corner. It wasn’t, and her name is nowhere to be found in reference books.