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作家、翻訳家になるのはそれほどむずかしいことではない。小説を書く、翻訳をする。それだけできみは作家なり翻訳家になれる。同人雑誌にはそういう作家がいっぱいいる。
では、作家や、翻訳家になることが、きみの目標なのか。
そのためには、きみの過去、現在が、そのための手段ということになる。
きみはどれだけの過去を生きてきたか。それを現在、誰にむかっていきいきと語ることができるのか。
むずかしいのは、最初の小説を書き、最初の翻訳をしてからなのだ。つぎの小説が書けるのか。さらに、そのつぎの小説が書けるのか。
一冊の本を翻訳をする。つぎにまったく違う作家のものを翻訳できるのか。または、それまで手がけたことのないジャンルのものを翻訳できるのか。
大学の先生たちの翻訳が、たいていおもしろくないのは、こんなことを考えもしないからだ。自分の好きなことをやっていればいいのだから。
こうなると、作家なり翻訳家になることなどたいした目的にはならない。
いい小説を書く。ほかの翻訳家のやらないような作品を選ぶ。つまり、いつもいい小説を書き、いい翻訳をしたいという願望が、きみをほんとうの作家なり翻訳家にするのだ。