ある調査。6歳から89歳の男女、3000人のアンケート。
昨年4月から、今年の3月まで、テレビで流されたCMは、総計、1万7765本。
このなかで、好感をもったCMを、最大五つまで記入してもらったという。
2019社のCM、1万147本は、まったく記載されなかった。このなかには、年間、最大、905回もCMを流していた企業もあった。笑ったね。これでは、CMを流しても、ほとんど成果がないことになる。
この調査で、いちばん広く評価されたのは、ソフトバンクのCM。お父さんが白いワンワン、お母さんが女優の樋口 加奈子。兄が黒人のモデル、妹が上戸 彩。
つぎが、コーヒーの「BOSS」。
そのつぎが「任天堂」。
せっかく有名タレントや、クリエーターを使っても、見ている側の意識、認識に、何も変化が見られないのでは、企業としてはたまらないだろう。
この調査を行った「CM研究所」の代表も、「CMと販売二は関連性があり、印象に残らないCMは企業に貢献せず、日本経済のロ
スですらある」 とコメントしている。 (「読売」’09.5.15)
またまた笑った。それなら、みんなCMなんかやめてしまえばいいじゃないか。
この記事を読んで笑ったが、自分はどうなのかと考えた。
なにしろボケているので、テレビで流されたCMのほとんどをおぼえていない。しかし、心に残ったCMは、ある。
ただし、私の心に残ったCMは、おそらくほかの人にまったく印象が残っていないものばかりだと思う。
たとえば、昨年、こんなCMがあった。
若い芸者(半玉)がふたり、相対してすわり、アッチ向いてほい。明るい部屋だが、なんとなく雪洞めいた感じの照明で、部屋は四畳半。着飾った半玉ふたりが、やわらかい座布団にくつろいで、お互いに、無心に遊んでいる。だが、最後に、そのひとりがキャッキャッと嬌声をあげて、顔をこちらに向ける。
この美少女の顔がじつによかった。うき川竹の、流れを汲んで、人となりしか、そのまなざしに無量の愛嬌。未通女のあやうい美しさがかがやいた。こんなCMはめったに見られない。私は感嘆した。
このCMは、わずか数週間つづいた。やがて、趣向も演出もほとんどおなじだが、別のふたりのCMと差し替えられた。やはり、若い半玉がふたり、相対してすわり、アッチ向いてほい。
しかし、これはまったく魅力のないCMで、じきに消えてしまった。
片々たるCMだって、誰かの心に深く刻みつけられることはあるのだ。
すぐれた掌編小説が心に深く刻みつけられるように。