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(No.1237からつづく)

この夏、船橋で「第七天国」(フランク・ボゼージ監督)を見た。この映画は、戦後すぐに池袋の焼け跡にできたバラックの映画館で見ている。私が、はじめて見た戦前のハリウッド映画だったが、あらためて60年ぶりに見直したことになる。
この日、私はかぎりなく幸福だった。まるで天使が私のとなりに舞い降りてきたようだった。
戦後、アメリカ映画を自由に見られるようになったが、「第七天国」を見たとき、隣りに美しい女性がいて、胸がどきどきした。私は、ほんとうに解放感を味わっていた。
この映画を見直して、連日の暑さで枯渇していた内面に火がついた。はじめて恋をしたようだった。私が長年心に秘めてきたのは、こういう思いだったのか。

「第七天国」は、アカデミー賞最初の最優秀作品賞。ジャネット・ゲイナーはこの作品で主演女優賞を受けている。

1928年のベストテン。

「愛国者」
「ソレルとその子」
「最後の命令」
「四人の息子」
「街の天使」
「サーカス」
「サンライズ」
「群衆」
「キング・オブ・キング」
「港の女」

私の見た映画は、「サーカス」、「群衆」、「港の女」だけ。
私はとても映画研究家にはなれない。

「サーカス」は日本では未公開だったが、戦後、パリの「オデオン」で見た。日本では見られなかったチャプリンの活動写真をパリで見た。観客は、子どもたちが多かったが、日本人は私ひとりだったのではないだろうか。これも忘れられない。この映画を見て、コメディを見る無上のよろこびといったものを知った。

私が生涯の大半をかけてもとめつづけてきて、最近になってやっと手に入れたものを、チャプリンは、とっくの昔に手にいれていたような気がする。

それをなんと表現していいのか。ミューズとの邂逅といおうか。   (つづく)