2011年である。
気のきいたことの一つもいいたいのだが、何もうかばない。
ルネサンスに生きた、ポッジオ(1380~1459年)の話を思い出した。
ローマにさる有名人がいた、という。
ある日、何を思ったか、葦でかこまれた壁の上によじ登った。(湿地帯で、あたりに葦がいっぱい生えていたらしい。)
その葦にむかって、彼は演説をはじめた。市政を論じはじめたのである。むろん、人間相手ではないから、日頃、胸懐に秘めた不幸、不満、はては、天人ともに許さぬ者どもに対する激烈なフィリピクスもふくまれたことだろう。
熱弁をふるっていたとき、一陣の風が吹きわたり葦の葉をそよがせた。
それを見た雄辯家は、自分の話に賛成して頭をたれた人々と見立てて、
「ローマ人諸君、そんな敬礼にはおよびませぬ。私は、みなさんの中でも、もっとも卑小なる一人に過ぎません」
と呼びかけた。
このことばは、このときからローマの格言になったという。
これだけの話。
この男は、民衆にへりくだって見せたのか。それとも、謙虚な人物だったのか。あるいは、世間にむかって声をあげることのできない臆病者だったのか。ひょっとすると、おのれの夢想に生きたロマンティスト。いや、ナルシストだったのか。
ポッジオは、この短いエピソードを、どうして自分のエッセイに書きとめたのか。
2011年、新年を迎えて、私はぼんやりとこのローマ人のことを思い、このホームページに書きとどめて、春風駘蕩たる気分を味わっている。
みなさんのご多幸を祈りつつ。