1186

エチオピアの大地。
俳優の高橋 克典が、ダロルという土地の異様な景色を歩いている。
植物の生育などまったく見られない。ただ、赤茶けた岩と、黄褐色の砂が広がっている。そのさきに、切り立った崖があって、その頂上に、巨大な岩盤を削って作った原始キリスト教の教会がある。そこにたどり着くには、牛の革をねじりあげたロープにすがりついて、断崖をよじ登らなければならない。
高橋 克典は、岩山をやっとのことで登りつめる。そして、これも、巨大な岩を削って作った十字架を見る。

高橋 克典がつぎに訪れたのは、おなじエチオピアの、エルタ・アレ火山。
これもまた異様な風景だった。ヘリコプターの空撮で、火山の噴火口をとらえている。眼下に巨大な火流がグツグツと煮えたぎっている。噴火口から噴煙をあげるのではなく、火口がひたすらすさまじい勢いで燃えつづけている。
クレーター(噴火口)の直径、150メートル。火山だから、外輪山ができているが、これがことごとく溶岩。つまり、有史いらい、爆発をくり返してきて、すさまじい溶岩の流れがいつしか外輪山になったものらしい。
その火口が現在もはげしい勢いで燃えつづけ、火の海、溶岩湖になっている。

ふと、岑参の詩を思い出した。この火山とは関係がないのに。

火山今始見   火山 いま はじめて見る
突兀蒲昌東   とっこつとして ほしょうの東
赤焔焼虜雲   せきえん りょうんを焼き
炎気蒸塞空   えんき さいくうを むす

私は、ここにきて、はじめて火焔山を見た。ごつごつした山で、西域、トルファンの東に位置する。真っ赤な焔が、はるかな異境の雲を焼いている。その火の熱気は、山をとざす空にさえぎられて、蒸し焼きにされるようだ。

西域、トルファンと、アフリカのエチオピアでは、まるで違うはずだが、エルタ・アレ火山の風景はうまく表現できないので、中国の詩人に応援をたのむしかない。
こういう風景を見れば、誰しもことばを失うだろう。

高橋 克典はこの風景に感動したようだった。まるで、地球の血管が脈うっているようだという。たしかに、そんなふうに見える。心に残る、いいドキュメントだった。

 

<10年3月15日(日)7.PM.「テレビ朝日」>