藤原 正彦先生は、小学校5年のとき、数学者になるときめたという。
6年のとき、父が「大学案内」という本を買ってきて、東大理学部数学科の所を開き、「この『定員15人』が日本で一番頭のいいやつだ」と言った。単純でおめでたい私は、「ぼくは日本で一番だから当然ここに行く」と進路を決めてしまった。」(「数学と品格」)
すごい小学生がいるなあ。
藤原先生のご父君は、作家の新田 次郎。
小学校5年の私は何をしていたのか。トム・ソーヤー、ハックルベリ・フィンよろしく、勉強そっちのけで遊んでいた。ところが、弟が病気で亡くなったときから、よくいえば内省的、ひらたくいえば暗い性格の子どもになった。
この頃、父が一冊の本を買ってくれた。後藤朝太郎先生の「漢和辞典」である。紙質のよくない廉価本だったが、ほかに読む本もなかったので、毎日この本にかじりついた。
現在の私が、漢字をよく知っているのは、この辞典のおかげである。その後、私が手にしたのは、簡野 道明先生の『字源』で、これまた紙質のよくない本だったが、私はかなり熱心に読んだ。
後藤先生の「漢和」にない漢字が多いので、それを眺めるのが楽しかった。
小学校5年のときにおぼえた漢字は、今でもだいたいおぼえている。私は、現在の教育でも「読み書きそろばん」だけはできるだけしっかり身につけさせたほうがいい、と考えている。
「ゆとり教育」のツケがまわって、57カ国の、15歳の子どもたち(男女)約40万人を対象にした「国際学習到達度調査」(第三回)の結果が、世界同時に発表された。(’07.12.5)
日本は、「数学的応用力」で、6位から10位に落ちた。「読解力」では14位から15位に。
ちなみに、「数学的応用力」で1位は、台湾。2位、フィンランド。3位は、香港。4位は、韓国。日本は、1位だった前々回に比較して、34点も低下して、堂々の10位。
しかし、まだ悲観する必要はない。さらなる学力低下が心配されている現在の初等教育でも、漢字の習得はかなりの程度まで可能なのではないだろうか。
いまの私は、文章を書くのに、ワープロ、パソコンの変換にない漢字は使わない。それはそれでいいのだが、使わないせいで漢字が書けなくなってしまった。たとえば、漢詩を引用したいと思っても、漢字が出ないのでは仕方がない。
扁旁冠脚の知れない漢字を思い出そうという努力もしなくなった。
これも、老いぼれた証拠か。