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 十九世紀のイギリス。女性が小説や物語を読むことは道徳に反することときめつけられていたのは、ヴィクトリア時代だった。

 社会通念(イデ・レシュ)なるものが、どんなに脆い基盤の上に立っているものか私たちもよく知っている。

 フランスの銅版画に、うら若い女性が本を読みながら、思わず知らず、性器に手を当てているという構図のものがあって、小説や物語を読むような女は堕落すると見られていた。

 いまの日本の若い女性は本を読まなくなっているだろうか。小説や物語を読んで堕落する女の子などいるはずもない。もはや、小説や物語はそれほどの魅力がない。それに、若い女性がマスターベーションをしたところで誰が非難するだろうか。彼女たちはこの時代のオーガズムを「発見」しているのだ。

 ところで、ポーノグラフィーがいちばん盛んだったのはヴィクトリア時代だった。