仙台市土樋に住んでいた。愛宕橋のたもとで、門のすぐ横に柳川庄八ゆかりの池があった。柳川庄八は伊達家の浪人で、主家のかたき、重臣の茂庭周防守を青葉城下に襲ってみごとに討ち果たし、その首をかかえてひた走り、愛宕橋までたどりついてこの池で生首を洗ったという。戦前は講談のヒーローのひとりだった。
まわりを大谷石で囲っただけの二畳ほどの小さな池だが、草木が生い茂っていて昼でも薄暗い。小学生の私は柳川庄八の敵討ちについては何も知らなかったが、ここまで走りつづけてきた浪人の姿が心に残った。
はるか後年、時代小説を書いたが、私の主人公はいつも走っているのだった。