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 駐日大使だったクローデルは、関東大震災を体験している。逗子にいたお嬢さんを救い出すために六郷川まで行ったが、罹災者の流れ、劫火に見舞われる。その間に大使館は焼亡した。
だが、大使館員たちは大使の身のまわりのものを必死にもち出した。大礼服と勲章も。
だが、誰ひとり彼の原稿を助け出さなかった。
これが「繻子と靴」の第三幕だった。