野津 智子

 先生、大変ご無沙汰しております。本当に、ご無沙汰しすぎてしまいました……。ただ、物理的にはたしかにお目にかかれませんでしたが、先生の存在が遠かったことはありません。ずっと、折にふれ、先生の言葉を、教えてくださったことの数々を、思い返していました。原書と向き合うとき、ゆきづまったときに、先生のお顔を思い浮かべながら、何度も。なんだか、つい昨日のことのようです。先生の授業を受けていた、あの日々が。
 この世界に足を踏み入れたときから、そのなかを進むことはわたしにとっては自分と向き合い、自分を変えたり調整したりすることでもありました。時を経て、今は、わたしはわたしであっていいのかな、と。そんなわたしにとって、先生はとんでもなく偉大で、どなたかがおっしゃるようにおっかなくて、出逢いがもっと遅かったらいろんなことがあるいは違ったかしらと思ったりします。いつの日かそちらの世界でお目にかかるときが来たら、もっと素直に、いろんな思いをお伝えできるでしょうか。ええ、きっと。
 先生、不出来で不器用な弟子の端くれですけど、わたしがどうにかこうにか仕事を続けてこられたのは、ひとえに、先生のおかげです。深い感謝を、あらためて、心から申し上げます。

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