(つづき)
進 一男の「行ってしまうんですか愛する人よ」という1編は、島唄の、
行きゅんにゃ 加那
吾(わ)きゃくぅとぅ忘(わし)りてぃ
行きゅんにゃ 加那
う立ちゃ う立ちゅてぃ
行き苦しゃ
ハレ 行き苦しゃ
詩人はこれを訳して、
行ってしまうのですか 愛する人よ
私たちのことを忘れて
行ってしまうのですか 愛する人よ
いいえ 出発するには しようとするのですが
どうにも行きにくいのです
本当に 行き苦しくてならないのです
さらに、詩人はこの本歌の変奏をつづける。
私たちのことを忘れて
行ってしまうのですか 愛する人よ
とは 私は言いませんよ
元気で行っていらっしゃい 私のことなど忘れて
私たち家族のことも 何もかも打ち捨てて
体に気をつけて 行っていらっしゃい
でも 島のことだけは 決して忘れてはいけませんよ
あなたの行く所は いい所で
人たちも皆 いい方ばかりとのことですから
私が心配するようなことは何もないと思いますが
昔 私が居た頃は まだまだ差別意識の特に強い所でしたけど
今の時代 まさか そのようなことはないのでしょうね
どんなことがあっても シゴトレと歯を食いしばって
決して負けないように キバランバ不可ませんよ
でも もしも どうしても我慢てきないことになったら
前に一度 私が話して聞かせたことがあったように
諸肌脱いで とまでは言いませんが お上品振ることはありません
片肌位は脱いだっていつ公にかまいませんよ
チヂンを打ち鳴らして 相手に分かろうが分かるまいが
シマグチでなく しっかりしたシマユムタで
ユミちらしてやりなさい
泣きを見せてはなりません それでも我慢てきない時は
思い出すことです どの様なときでも あなたには
あなたを優しく受け入れてくれる島のあることを
しかし何と言っても あくまでも大切なことは
あなたの周りのすべての人に 心から優しくすることです
私は思うのですが 平和とは一人一人の優しさなのですから
でも 本当に行ってしまうんですね 私のいとしい子よ
私はこの1編に心から感動した。人間の愛別離苦、そして母と子の愛が語られている。こういう純乎たることばを口にするとき、私のような「ミンキラウワア」の内面にも詩を読むことのありがたさがあふれてくる。
--この詩集を読みたいと思うひとのために--
注) 進 一男著 詩集『見ることから』(詩画工房/09.3刊・2200円)
〒894-0027 鹿児島県奄美市名瀬 末広町10-1