マリリン・モンローが、「七年目の浮気」で着ていたドレスが、ビヴァリー・ヒルズのオークションで、460万ドルで落札された。
(AP・CNN/電子版・ニューズ<’11.6.18,>
ニューヨークの夏。マリリンが、隣人のトム・ユーエルといっしょに映画館の前まで歩いてくる。
地下鉄のダクトから風が吹き上げてくる。ダクトの上に立ったマリリンのスカートが風をはらんで舞い上がる。マリリンの生足が見える。白いパンティーが見えそうになるので、マリリンがスカートの前を押さえる。
有名なシーンである。
ビリー・ワイルダーがこのシーンを撮影したときは夕方で、ニューヨークじゅうの見物人が集まってきた。そのなかに、有名な新聞記者、ウォルター・ウィンチェルがいた。私はマリリン・モンローの評伝めいたものを書いたことがあるのだが、この部分は、ウィンチェルの記事を参考にした。
マリリンの撮影現場には、新婚の夫、ジョー・ディマジオがいた。彼は、マリリンが、地下鉄のダクトに立って、下から吹き上げてくる風をうけるという「演出」が気に入らなかったらしい。
ウィンチェルは、目ざとくディマジオの姿を見つけて、この撮影の感想をもとめた。ディマジオは、公衆の見守るなかで、妻のマリリンのスカートがふわりと舞い上がり、マリリンの下半身があらわになる、というシーンに屈辱的な思いをもったらしい。
ウィンチェルを睨みつけると、語気するどく、「ノー・コメント」ということばを残して現場を去った。ディマジオは嫉妬深い男だったらしい。
このときから、ディマジオ/マリリンの不仲がはじまったという。
今の感覚からいえば、ディマジオがヤキモキするほどエロティックなシーンでもない。このときのマリリンの巨大な看板が「ロキシー」の正面をかざって、当時、大評判になったが、私などは、このシーンのおかげで、当時のマリリンの下半身、とくに白いパンティーにおおわれたアブドーメンが拝見できるし、マリリンのおかげで、このシーンは映画史に残るほどのものになったではないか、と思う。
このシーンを撮影したとき、暗くて、暑苦しいダクトの下に、巨大な扇風機をもち込んだスタッフは3人。わずか数秒のシーンのために、酷暑のニューヨーク、それも夕方から夜9時近くまで、何度も何度もテストをくりかえしていたスタッフたち。
もし私が、ウィンチェルのように撮影現場にいあわせたら、まっさきにこの連中のコメントをとるだろうな。
この撮影シーンのことから、やがて私の考えは別の方向に向かった。
その一つは――嫉妬である。
私自身、他人に嫉妬したことがないとはいえない。女の嫉妬は、いわば本能的なものだが、男の嫉妬は本質的にいやらしい。自分が恋した女がみるみるうちに離れて行ったようなとき、私はその女を奪い去った「誰か」に嫉妬しなかったか。しかし、苦しみつづけても仕方がない。女なんてものは、バーゲンセールの見切り品のように飛び去ってゆく。
これは、ヘミングウェイのことば。
嫉妬は人の心を腐らせる。そう思うことで、私はやっと自分をささえてきたのだった。
ディマジオの哀れは、私にもよくわかったけれど。
いつまでも、そんな女やその女の相手を嫉妬するな。どうせバーゲンセールの見切り品だから。そう考えればいい。
「七年目の浮気」でマリリンが着たドレスが貧乏作家の私に買えるはずもないが、私は、もの書きとしてマリリンからいろいろなテーマをもらったと思っている。