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ベルリンからパリに。それほど時間がかかるわけでもない。
ルフト・ハンザ。私の隣りに、8、9歳の少年がすわった。服装はふつうだったが、中流の上ぐらいの家庭に育ったらしく、態度が上品で、まだ幼いからだつきながら、明るくてとても可愛らしい。
しばらくして私は、この少年に話しかけてみた。
「失礼だけど、きみはどこに行くの?」
「パリ」
「いつもひとりで旅行するの?」
少年は私の質問に不思議そうな顔をした。
いつもひとりで旅行している。
少年は小学校2年生。ベルリンに住んでいて、5日間の休みに、フランスの友だちのところに遊びに行くのだった。
私に答える少年の態度には、年長者に対する敬意が見られた。見知らぬ外国人、それも日本人に話しかけられたことはなかったに違いない。きちんと座席に腰かけて、どんな質問にもきちんと答える少年に私は感心した。

ドゴ-ル空港に着いたとき、彼は私に向かって、きちんと足をそろえて、
「あなたとお話できてうれしかったです」
といった。

少年の名前も知らない。私も名前を告げなかった。
しかし、この少年のことば、その姿、マナ-、凛然とした態度は、いつまでも心に残った。

まだ、私たちのあいだで、国際化とか、小学校からの英語教育などが問題になっていない頃のこと。

それだけのことである。