夏目 漱石は、大学をやめて「朝日新聞」に移り、本格的に作家活動に入るのだが、このとき、ある人にあてて手紙を書いた。
小生の文章を二三行でも読んでくれる人があれば有難く思ひます。面白いと云ふ人があれば嬉しいと思ひます。敬服する抔といふ人がもしあれば非常な愉快を覚えます。
私も、この「コ-ジー・ト-ク」を一つでも読んでくれる人がいればありがたいと思っている。おもしろいという人があればうれしいと思う。
敬服するなどという人はいるはずがない。軽蔑するという人がいれば、「非常な愉快を」おぼえるかも知れない。私にはマゾヒスティックなところはないが、そうした軽蔑にはかならず羨望がひそんでいるからだ。
私は漱石先生の足もとにもおよばない、しがないもの書きだが、こんなものを書きつづけていると、自分の考えの動きが見えてきてけっこう楽しい。
きみが読んでくれるだけで、ありがたいと思っている。