“The Same River Twice”
原作は、エドワ-ド・ヴォイド。私の知らない作家だった。
主人公「ジョニ-・マクセン」(ゴ-ドン・ジャクソン)は、別れた妻の母、「ヘレン」からの手紙でパリから急遽帰国する。そして、妻だった「ジュリア」が失踪していることを知らされる。
「ジョニ-」が、捜索をはじめると、娘の死にかかわりのあった「サンドラ」とその恋人「トム」が殺されている現場にぶつかる。
「サンドラ」の死を捜査している「ワ-ドロ-警部」は「ジョニ-」を容疑者と見て追跡しはじめる。
「ジョニ-」は、毎回、奇妙な人物に出会っては、あらたなナゾにぶつかってしまう。
なんとかスト-リ-だけはわかったが、堂々とした展開で、なまなかな翻訳家などに解説できるはずもなかった。今ならネットで調べることもできるだろうが、BBCに問い合わせる時間もなかった。原作者のエドワ-ド・ヴォイドがどういう作家なのか紹介することもできない。
もともとミステリ-の解説は、けっこうむずかしい。解説のなかで、犯人を暗示することも許されない。ましてラジオ・ドラマの前説なので、リスナ-に真犯人をさとられてはいけない。
私に届けられるテ-プは毎回2回分だけで、これを聞くだけで時間をとられてしまう。むずかしい仕事を引き受けてしまった、と後悔した。
おまけに、当時のスタジオ録音だから、NHKまで通わなければならなかった。今なら、全部の解説を録画、録音するにしても、おそらく1回、時間がかかったとしても、せいぜい1時間もあればすむだろう。しかし、2回分の録音で、ドラマのアタマに入る解説なので、ディレクタ-のサイン通りに、きっちりおさめなければならない。
日比谷にあったNHKのスタジオに4回ばかり通ったはずである。
私は、戦後しばらくして内村 直也さんの連続放送劇「えり子とともに」のスタッフ・ライタ-として、2年ばかり、毎週、NHKに通っていたことがある。だから、スタジオに通うのは苦労ではなかった。
制作室の廊下を歩くと、当時、出会ったり、ただ見かけただけの出演者、演出家、裏方のスタッフたちを思い出した。
しかし、1949年のスタジオと、1967年のスタジオは、すっかり違っていた。
(つづく)
――(「未知の読者へ」No.6)