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近頃、女優ということばを使わなくなったらしい。NHKでは、一時、「俳優」と統一したが、それはじきになくなった。ところが、最近、またぞろ復活してきたようで、女優さんが出るとテロップに、俳優 ・・・さんと出た。
冗談じゃないぜ、ほんとうに。怒りをおぼえた。
男女差別がなくなることには賛成だが、女優さんを俳優としてカテゴライズすることに、どういう意味、または必然性があるのか。
もともと女優という呼びかたはなかった。女役者という。
明治の頃の女役者としては、久米八などが有名だった。女だてらに浅尾信次と名乗った女役者の一座もあった。(このことから、当時の女性蔑視が見てとれるだろう。)
当時、大劇場といえば、いうまでもなく「帝国劇場」と「歌舞伎座」だった。
「歌舞伎座」が中村歌右衛門、福助、市村羽左衛門といった人気俳優をかかえていたのに対して、「帝国劇場」は松本幸四郎、尾上梅幸、沢村宗十郎、宗之助、中村勘弥などが座付き、これに益田太郎冠者が女優劇の一幕を出した。森 律子、村田嘉久子といった「女優」たちが登場する。それまで「女役者」と呼ばれていたが、「帝国劇場」が「女優」という呼びかたにしたのだった。
女優という呼びかたには、女性の社会進出を背景にしたはっきりした歴史がきざまれている。NHKなどが女優を「俳優」と呼ぶことが、女性の地位向上に役立つと考えているとすれば、かえって女性の解放の歴史を無視する暴挙だと思う。「女優」ということばひとつに、女性史の輝きが秘められているのだ。
そもそも Actor と Actress という違いを、すべて「Actor」としている国がどこにあるのか。
もし、NHKが「女優」ということばを抹殺するのであれば、私はあえて「女役者」と呼ぶことにしよう。料金も払ってやらないからな。おぼえてろ!