むかし、沢田 謙という伝記作家がいた。
『世界十傑伝』(大日本雄弁会講談社/1932年)という本の宣伝が凄い。
本書を見よ! 人間は誰でも偉くなれるのだ! 英傑を倣って奮起せよ!
とあって、数行先に、
見よ! 現に世界を動かしつつある十傑の真骨頂は劇を見る如く躍如!
この本がとりあげている人物は「何れも貧困より身を起し百折不撓! あらゆる苦難と闘い逆境を切り拓いて来た十傑!」である。
ヒンデンブルグ、フ-ヴァ-、ガンジ-、フランスの外相ブリアン、イギリス首相マクドナルド、新聞王ハ-スト、中国の蒋 介石、チェッコのマサリック、鋼鉄王シュワッブ、トルコの大統領ケマル・パシャの十人。
1930年代の読者は、こういう通俗的な読物で、「彼等の驚天動地の行跡には熱と力溢れ無限の教訓あり、意気に感ずるあり、明智果断にして真に一読感激、再読奮起!」したのだろう。
少年時代に沢田 謙の『少年エジソン』という伝記を読んで「一読感激」した。後年の私が、評伝を書くようになったのも、沢田 謙の『少年エジソン』を読んだおかげだった・・・とは思っていないのだが。
子どものために、せめて一冊ぐらい、やさしい偉人伝を書きたかったとは思う。