室生 犀星は70歳のとき、あるデパ-トの時計売場の女店員と知りあう。当時、19歳。初対面から惹かれる。
つぎに行ったとき、彼女に挨拶されてうれしくなる。
「あなたがぽかぽかと笑ってくれるので、それを見ていたら時計なんぞどうでもいいんだ」と考える。つづけて、「私はさういふ事が好きな男でありそのために小説といふ物を書き続けて来たのである」という。
夫人が亡くなって、少女は犀星のところに身を寄せる。3年後、犀星の死去の際、彼女はその臨終に立ちあった。
いまの私は心から犀星を羨ましいと思う。
私も「さういふ事が好きな男」だが、「そのために小説といふ物を書き続けて来た」わけではない。
やっぱり大作家は違うなあ。