夜はもう過ぎ去っているが、まだ朝はやってこない。太陽は、姿を見せるのをためらっている。通り過ぎてゆく車もなく、暗い灰色の靄のなかに街じゅうがしすかにうかびあがろうとしている。どの通りも空虚な時刻。そんなとき、ひどく孤独な気がする。
いろいろなことを考える。友人が体調をくずした。別の女性が仕事を終えて帰宅したあと、頭が重くなると訴えてきた。また、別の友人は、気鬱になって仕事をやめてしまった。 私は、そういう知らせを聞くとひどく動揺する。
毎日、誰かしら他人と接触している。日々の暮らしのなかや、さしたることのない偶然のなかで。そうしたふれあいが喜びをもたらし、情熱を喚びさます。ときには、何ものにもかえがたい貴重な時刻(とき)をあたえてくれる。
だが、老人にとっては、すべてはひとつのことから発している。それは、どうしようもなく孤独であること。
老人は、誰しも、死のように避けられない、こうした孤独をおぼえるのだろうか。
私はそういう孤独を避けようとして何かを書いているのかも知れない。