267

もう悪口をいってもいいだろう。
「オペレッタ狸御殿」(鈴木 清順監督/05年)を見て、その阿呆らしさにあきれた。この十年で最低のワ-スト映画だと思う。
太平洋戦争のさなか高山 広子主演の「狸御殿」(木村 恵吾監督)が、たいへんな人気になった。たあいのないファンタジ-だったか、この映画に熱狂したファン心理には、果てしもなく続いている戦争の息苦しさから、ほんのいっとき解放されたいという現実逃避の思いがあったと見てよい。戦後の「美空ひばりの狸御殿」には、ごく庶民的な大衆のアイドルが、じつは歌って恋をする美しい姫なのだ、という仮説があやかしと歌のドップラ-効果のように作用したのではなかったか。
ところが「オペレッタ狸御殿」には、なにひとつそうしたクリスタリザシオンがない。もともと鈴木 清順をまともな映画監督と思っていないが、この映画になると才能が衰えたとか枯渇したというレベルの話ではない。これほどひどい映画を撮ったとは思わなかった。
チャン・ツイィ-は本気でまっとうな芝居をしているが、監督がこの女優の魅力を出せないのだからどうしようもない。老齢の映画監督がくだらない映画を作るほど、無残なことはない。まして、才能もない老監督が、無残な老醜をさらすのはいたましいとしかいいようがない。