今では誰も知らない歌人だが、山川 登美子。与謝野 晶子に恋人を奪われ、傷心のあまり肺を病み、やがて夭折した薄幸の歌人。亡くなる半年ばかり前(明治四一年)に詠んだ歌がある。
わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく
山川 登美子としては、あまりできのいい歌ではない。
おそらく、小野 小町の「あはれなり わが身のはてや あさみどり つひには野辺の 霞と思えば」を意識したか。
さびしみのなかに、どこか華やぎがある。できのよしあしなど、どうでもいい。私の好きな一首。
福井に行ったとき、ある研究家から「山川 登美子歌集」をいただいて、山川 登美子を知った。そのときから、この歌人に心を惹かれた。