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好きな絵。
その前に立っていると、見ている私に無言で語りかけてくるような絵。
はじめて見たのに、なぜかなつかしい気がするような絵。
そういう絵は・・・・少ない。
ヘミングウェイは、プラドに行くと、ゴヤ、ル-ベンス、ベラスケスに眼もくれず、まっすぐスペイン絵画の展示室に寄って、いつまでも一枚の絵を見ていたという。
私も行ってみた。かなり狭い部屋で、その絵は小品といっていいサイズだった。おなじ8号ほどの二枚がならんでいる。それぞれ美少女が描かれている。
十六世紀に生きていた若い娘の肌のしっとりした匂い。何か超自然的な美しさに女のいのちのなまなましさが重なりあっているようだった。
ヘミングウェイはどちらの少女に惹かれたのだろうか。私はどちらともきめかねて見較べていたが、そのうちにそんなことはどうでもよくなってきた。
はじめて見たのに、なぜかなつかしい気がするような絵だった。