小間物屋。今ではまったく見かけなくなった。昔のスーパー、またはコンビニ。
日用品ならなんでもそろっていた。店先に板の台に、石鹸、歯磨き、香水、白粉(おしろい)、椿油などが眼につくように並べられている。
江戸と明治がまざりあっていた。
たいていが土間で、中の棚には半切れ、状袋、筆や墨、和紙、色紙、書簡箋。
その奥に手巾(ハンケチ)、手拭い、メリヤス、どうかすると、女ものの半襟、かもじまで。このあたりには、明治と大正の匂いがただよっていた。
とりどりの雁首のついたキセル。なかには村田張り、千段巻きのシンチュウギセル。
舶来タバコの綺麗な箱を飾りつけ、安ものの駒下駄、夏には麦わら帽子など。
和菓子も、串団子、金鍔(きんつば)、豆大福、酒マンジュウ。
売薬、ウイスケから電気ブラン、ポルト・ワインなどの洋酒まで。
これが温泉場の小間物屋になると、店いっぱいに湯花染、ご当地名物の繰りもの細工。花筒(はないけ)。木彫りの置きもの。
いちおう何でもそろっていた。
永井 荷風は「コルゲート」で歯を磨いていたし、芥川 龍之介は「コカコーラ」を飲んでいた。
今では小間物屋は根こそぎ壊滅した。江戸情緒もへったくれもない。
戦前、価格が均一の「10銭ストア」があった。そういう移りかわりを見てきた私には、戦後になって、いたるところに進出してきたアメリカン・スタイルのコンビニも、私にとっては西洋小間物屋に見える。