1896

コロナ・ウイルスで、外出も自粛していた時期、私は、ほとんど読書しなかった。理由はある。外出自粛で新刊書も買えなかったからである。それに、私の親しい友人たちの本が出版されなくなった。

仕方がない。前に読んだ本を見つけて読み返そう。

そうして読んだ本のなかに、あらためて感銘を受けた評伝がいくつかあった。

その一冊は、第一次世界大戦後のロシア革命と、その後のソヴィエト、ヨーロッパの裏面史を彩ったロシア貴族の女性の評伝だった。1981年出版。非常に優れた評伝で、日本では、1987年に翻訳が出版された。翻訳も信頼できるものだった。

訳者は、あとがきで、

私事で恐縮だが、大きな関心をもつ時代の歴史の裏側に埋もれていた興味ある事実が次々に明らかにされるので、私はこのしごとを実に楽しく進めることができた。この興味を広くみなさんと分ちあいたい思いでいっぱいである。なお調べが十分でなかったところもあるので、人名や地名の誤記については御教示を仰ぎたい。

という。

この翻訳を読みながら、人名の誤記の多さに驚いた。

    ル・サロメ                 ルー 
    クリストファー・イシェルウッド       イシャーウッド 
    マルガリータ・ゴーチェ           マルグリート  
    バークレイ・ド・トーリ           バルクレイ
    ボルジノ                  ボロジノ
    アルトゥール・ランソン           アーサー
    アルバート・トマ              アルベール
    セオドル・ルーズヴェルト          シアドー
    バジル・ザハロフ              ベイジル
    ラルッサ                  ラルース 
    クロード・ファーラー            ファーレル

 これで、半分。
私の記憶がおかしいのかも知れないが、原文が「ル・サロメ」とあっても、私なら「ルー・アンドレアス・サロメ」とするだろう。
クリストファー・イシェルウッドは「クリストファー・イシャーウッド」とする。

せっかくいい訳なのに、私の知っている人名が違っていると、どうしてもひっかかる。
この訳者はクロード・ファーレルの「海戦」を読んだことがないにしても、デュマ・フィスの「椿姫」も読んだことがないらしい。

「百科事典」のラルッサには驚かされた。

ドロップを舐めていて、ガリッと、砂利を噛んだような気分になる。