高見盛というお相撲さんに人気がある。
制限時間いっぱい、最後の仕切りに入るとき、自分の気もちを引きしめるのだろう、いきなり自分の顔を両手でバシバシッとたたく。満面を紅潮させながら、両手の拳をにぎりしめ胸もとをドシンドシン。つづけて二、三度、両手を胸もとにグイッグイッとひきつける。まるで重量挙げの選手がバ-ベルをあげるように。
そのウォ-・ダンスの動作が滑稽というか、見ていておもしろいので、場内に声援と笑いがどっと沸く。本人は大まじめなのである。
こういうお相撲さんが、ほかにもいたのだろうか。
明治14年頃、三段目に、越ノ川というお相撲さんがいた。この力士が土俵にあがると、どっと笑いが沸いて、たいへんな人気だった。なにしろ、ユルフンで、やたらと上のほうにしめている。本人はそれを気にして、両手の親指を突っ込んで、下にさげる。そのとき、おなかをペコペコさせる。仕切り直すたびに、それをくり返す。
見物人は大喜び。本人は、なんで見物が笑うのか気がつかない。どうして笑うのかわからなかったらしい。
少しも当てこみがなかったので滑稽が下卑(げび)なかった。
この越ノ川は負けてばかりいたが、それでも番付はあまり下がらなかった。人気があったせいだろう。
江見 水蔭を読んでいて、こんなお相撲さんのことを知った。