たくさんの舞台を見てきた。
ある舞台に、それなりに忘れられない、強い感動がある。だが、舞台で演じられた「芸」に感動したこととは、べつの感動があって、忘れられないものになった舞台もある。
マルセル・マルソー。
おそらくは、もう誰もおぼえていないフランスのパントマイム役者。
パントマイムについて語ろうというわけではない。
ただ、マルセル・マルソーは、エチエンヌ・ドクルー、ジャン・ルイ・バロー、ジャック・タティと並んで、コトバに頼らない純粋のマイム、ミミックリーで、優美なドラマを現出した役者だったことだけでいい。
サーカスの道化だって、パントマイムで観客を笑わせるぐらいの「芸」を身につけている。
ジャン・ルイ・バローのマイムは、映画、「天井屋敷の人々」で見せたように、マイムでひとつの物語をみせる。これに対して、マルセル・マルソーは、先輩のマイム役者の資質の、ある若干のものを、おのれの内部に発展させたひとり。
バローのマイムが、優美な情景を描くのに対して、マルソーは短いが、もう少し起承転結をもった寸劇を展開する。たとえば「ダビデとゴリアテ」のようなレパートリーで。
私がマルセル・マルソーを見たのは、まったく偶然だった。
画像:ウィキペディア マルセル・マルソー より