1764 〈1977年日記 11〉

1977年5月18日

「二見書房」の原稿、やっと終章を書きあげた。

日ソ漁業交渉、妥結の見通し。この数カ月、ソ連のしたたかな対外政策に日本は翻弄されつくした感じ。こういう交渉のせいで、日本人の国民感情が反ソ的になるのは当然で、ソヴィエトに対する恐怖感はこれからも払拭されることはない。
石油資源は、1980年代に、世界の需要が産油国の供給を上廻るという予測が出ている。これに重なって、ソヴィエトの国家的なエゴイズムがつきつけられることは間違いない。あと10年。考えてみると、私はおもしろい時代に生まれあわせたものだ。
(以上を書いたあとで、ソヴィェトがまたしても修正案を出してきたため妥結できなくなったとつたえてきた。共産主義国家を相手の交渉は、いつもこういう欺瞞がつきまとう。これで日本人の反ソ感情は決定的になるだろう。)

 

image

 

 

1977年5月19日

「ロ-リングスト-ン」と「ニュ-ヨ-ク・ルヴュ-」を読む。
フランシ-ン・デュ・プレシックス・グレイという女性が、インタヴュ-のなかで、アナイス・ニンについて語っている。
エリカ・ジョング、ロイス・グ-ルド、さらにイ-ディス・ウォ-トン、アフラ・ベ-ンといった作家たちについて語ったあと、性的な率直さに関して、アナイス・ニンが大きな一歩を踏み出したのではないか、と訊かれて、

ある意味ではそうですけれど、あまり好きな作家ではありません。彼女は肉体と
いう罠にかかずらい過ぎているし、肉体的、本能的なものを褒めたたえる、古い
男性の女性観をささえています。ニンの書くものは、私にとってはやたらに面倒
くさい。といっても、エミリ・ブロンテからアナイス・ニンに到る多数の女性作
家が、率直な作品を書きたがっていたこと、その欲求を抑えるなり、表現するか、
ないしはイ-ディス・ウォ-トンのように、隠蔽してきたことは忘れてはいけ
ない。ウォ-トンが、父と娘が近親相姦する場面でカニリンガスを描いているこ
とをご存じですか?

という。ちょっと驚いた。「ビアトリス・パルマ-ト」という短編で、カニリンガスを描いているという。ぜひ、探し出して読んでみよう。
この女性は、アナイスに対して否定的な評価しかあたえていない。このあたりから、いつか何か考えてみたい。グレイさんは、14歳のとき、「キンゼイ・リポ-ト」と、サドを読んだというが、別に驚くほどのことではない。こんなことを自慢そうに語る女性など、私の趣味ではない。

3時、「未来世界」(FutureWorld/リチャ-ド・ヘフロン監督)を見る。これは、「ウェスト・ワ-ルド」(マイケル・クライトン監督/72年)の続編。
砂漠のドまんなかに作られた大テ-マ・パ-ク、「デロス」。帝政ロ-マ、中世ヨ-ロッパ、アメリカの大西部という3つの仮想世界に、人間そっくりのロボットが登場する。
ユル・ブリンナ-は、こわかったナ。
前作のラストでこの「デロス」は破壊されたが、「未来世界」で復活し、こんどはユル・ブリンナ-だけでなく、世界の有名人のロボットがふたたび世界征服をねらう。
その陰謀に、新聞記者「チャック」(ピ-タ-・フォンダ)、TVキャスタ-(プライス・ダナ-)が気がつくが、ロボットたちは前作よりはるかに強力になっている。
続編はだいたいがオリジナルよりデキがわるいのが相場だが、この映画はオリジナルよりいいデキになっている。