1699 私のキャサリン・マクフィー論【13】

【13】

「ヒステリア」は、これまでの、キャサリンの「キャサリンらしさ」をかなぐり捨てて、あらたな表現に立ち向かおうとしている。私はそういうキャサリンをじゅうぶんに認めながら、ここまでの自己否定は、むしろ不自然にヒステリックではないか、と見た。

このアルバムは、アーティストとしてのキャサリンの成熟を示しているのか。しかし、さして成功したとはいえないのではないかと思う。私は、このアルバムにあらわれたキャサリンのいちじるしい「変貌」にただただ驚いているのだが。
その歌詞や、ヒステリックな叫び、ほとんど収拾のつかない焦燥、不安の中に、私はキャサリンの孤独を聞く。

最後に、キャサリンが書いた献辞を紹介しておこう。
キャサリン自身が「SMASH」で傷ついたことは、この「献辞」にもよくあらわれていると思われる。

(私は、かつて「Unbroken」や「クリスマスはアイ・ラヴ・ユーをいうとき」の、キャサリンの献辞を紹介している。これと比較してみれば、あのイノセントなキャサリンは、もはやどこにもいないことがわかるだろう。)

「私が音楽活動をせずに、ほかの分野で仕事をしていたり、このレコード作りに専念していた時期にみなさんが私をささえ応援してくださるのを感じていました。
まず、個人的に感謝したいのは、このレコードの企画、製作、エグゼクティヴ・プロデューサー、テレサ・ホワイト。私の人生の21年半を通じて音楽的に助言してくれたばかりか、むずかしい時期にも親友として元気づけてくださって、どんなに助けられたか。自分でも想像以上にいいソングライターに育ててくださったわ。あなたが作詞という世界に私の背中を押してくれたから、いまの私は作詞が好き。イサ・マシンに。あなたは、ほんとうに特別な経験をさせてくれて、大きな創造をさせてくれた。
ケリー・シーハンに。あの夏、毎日一緒になってくたくたになるまで仕事をしたわね。ロンドンに行ったり、たくさんの才能のある人たちに紹介してくださったことは忘れないわ。トニー・マセラティニ。このレコードのミックスを担当してくれたあなたがた以上のスタッフはいないし、最高のスタッフに恵まれた私は運がよかった。このレコードを出してくださったキャリア・アーティスト・マネージメントのみなさん、WMEのニック・コカス、ゲイル・ホルコム、eONEに感謝。何よりもまず私という人間を助け、関心をもってくださったことに。そして、いつも援助してくれた人達に感謝。人生でこんなにすばらしい人たちにめぐり会えたことに心からありがとう。」

少女時代、17歳のマリリン・モンローは、痩せッポチで、ヒョロヒョロしていたので、「人間マメ」(ヒューマン・ビーンズ)というアダ名がついた。17歳当時のキャサリンは、思春期にありがちな精神的な不安から過食症になったらしい。
私はこんなエピソ-ドに注目する。
こうしたエピソードは――キャサリンの少女期における自意識と、その後のパースナリティー、女優としての成功をめざしてかけ上がって行ったキャサリンの内部にひそむ、ある否定的な自己観 Self=conception の関係を暗示しているような気がする。あのマリリンの場合がそうだったように。

このアルバムを探して、私に贈ってくれた田栗 美奈子に心から感謝している。きみは最近の私が何も書かなくなっていることを気にかけてくれたのだった。
きみのおかげで、ささやかながら「キャサリン・マクフィー論」めいたものを書くことができた。
現在のポップスの世界もよく知らない人間が、その先端に立っているア-ティストについて語るのは無謀だが、私があえてキャサリンに対する批評を試みたのは、きみのひそかな慫慂にこたえるためでもあった。キャサリンの献辞の一節にあったように――「何よりもまず私という人間を助け、関心をもってくださったことに」心からありがとうと申しあげたい。

 

 

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