1697 私のキャサリン・マクフィー論【11】

【11】

 

 

「唇舐めて」(LICK MY LIPS)は、若い娘のエロティックな感情の起伏。「ブレイク」(BREAK)は、傷心を訴えるあまやかなファルセットがすばらしいが、最後にBreak Downするかのように、ブツッと終わる。なぜか、キャサリンの内面にひそむ緊張がまざまざとつたわってくる。いい例が、(7)「アペタイト」のラストで、重苦しいオルガンの重低音がワーッと迫ってくる。
キャサリンは、こうした曲で、自分の気分や思想の、ひそかなニュアンスをつたえようとしているのだろうか。「ブレイク」(BREAK)「ダメ-ジ・コントロ-ル」といったタイトルも、あきらかに「現在」のキャサリンの内面を物語っている、(作詞はイザベラ・サマーズと合作)。まさしく、キャサリン・マクフィーの「現在」がここにある。

「SMASH」とはまったく関係がないのだが、(8)ROUND YOUR LITTLE FINGER(作曲・クリストファー・ブレイド)は、失恋の歌。愛する相手が自分に怒りをもっていると知って、「忘れないで、愛する人」と切々と訴える。スキャットからハイ・ソプラノまでの音色の変化が大きく、キャサリンの傑作と見ていい。

愛の終わり。しかし、最後の曲、(12)「愛なんかいらない」DON’T NEED LOVE(作曲・イザベラ・サマーズ)になる。

キャサリンは、このアルバムでみずからの危機を表現している。
「ヒステリア」の響きのconstructionがふつうのポップスといちじるしく違っている。
はっきりいって、無惨なほど孤独な姿をさらけ出している。この「修羅」こそが「ヒステリア」の最大の魅力なのだ。
それはいい。問題はその先にある。

私は、「ヒステリア」にキャサリン・マクフィーという芸術家の「危機」を聞く。
たえずつづく孤独のなかで崩れそうになり、自己崩壊につながるようなピンチのなかで、女としての魂をふりたたせ、「Damage Control」のプロセスを刻みつけようとしている。ダメージを内面でコントロールしようと努力することで、キャサリンは、みずからの危機を表現している。そのあたり、ほとんど比類のない芸術家なのだと私は考えるのだが。

 

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