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秋の海辺。彼女は明るい日ざしを受けて立っていた。ほのかにピンク色の素肌が匂いたつような、しなやかな肢体が目の前にあった。季節はずれでもう誰もいない秋の海辺。午後の日ざしは少し弱くなって、波はおだやかだった。石を組んでセメントで固めただけの防波堤がほんの十数メートル海に突き出していて、そこに寄せてくる波に少しだけ変化が見えている。片側の波の流れはきらきらしているが、反対側の波は青みが濃くなって、そのあたりが少しだけ深くなっている。彼女は防波堤のすぐ横に立っていた。小柄だが、乳房から腰にかけてふくよかで、内部に秘めたものがしっとりみなぎっている。腕のやりばがないようで,片足をわずかに曲げるように立っている姿にはじらいが見られた。大きく見ひらいた私の眼が、彼女のすぐ眼の前にあった。その眼がつややかな潤いを帯びると、その手が動いて、すっと水着のストラップにのびた。ふっくらした乳房があらわれた。そのとき小さな波が寄せてきて、うしろに下がろうとした彼女が、よろけて石の壁に片手をついた。その瞬間にカメラのシャッターを落とした。後で現像した写真には、遠い水平線と、それを斜めによぎっている防波堤と、波に洗われてボロボロになっている石と、まるでヒトデのように石の表面にはりついている彼女の片手しか写っていなかった。