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私は恐竜ファンである。
古生物学に関して小学生ほどの知識もないのだが、恐竜に関する記事があれば、夢中になって読みふける。

白亜紀を最後に、恐竜は絶滅したという。6600万年も昔のことだから、人間は誰ひとり、恐竜の絶滅を見届けたわけではない。もし才能があれば、「恐竜最後の日」といったSFを書きたいくらいだが、あいにくそんなSFを書くチャンスはなかった。

メキシコのユカタン半島に、巨大な隕石が落下したという。その衝撃から、さまざまな天変地異が起きて、あえなく恐竜は絶滅した。その程度の知識はある。ところが、その天変地異に、あたらしい仮説があらわれた。

この巨大隕石の衝突にくわえて、大規模な火山の噴火がインドで発生したため、恐竜が絶滅したという。アメリカのUCCなどの国際研究チームが発表した。(2015.10.29.「読売」)
このチームは、インド西部の地層などを詳細に分析した。その結果、巨大隕石の衝突後の5万年以内に、大規模な火山の噴火が起きたという。
この噴火による火山灰の噴出量は、毎年、東京ドーム約700個分の、9億立法メートル。この噴火は、数十万年にわたってつづいた可能性がある、とか。

このチームは――隕石衝突と大規模な火山の噴火の年代が近いので、どちらが恐竜の絶滅のおもな原因になったのか、判定はむずかしい、という見解をしめした。

なにしろ6600万年も昔の話で、しかも隕石衝突と火山の噴火の年代差が「たった」5万年というのだから、思わず笑ってしまった。

ただ、この笑いには――隕石衝突で大打撃を受けた恐竜たちが、「たった」5万年でも、地球上で必死に生きのびようとしたに違いない、という思いが重なっていた。

ところで、この恐竜の絶滅から、まるで別のことを思い出した。

2003年9月、チャン・イーモーは、ウクライナで、「LOVERS」(「十面埋伏」)の演出に当たっていた。
チャン・ツイーの母親役に、香港の大スター、アニタ・ムイを起用する予定だった。しかし、梅 艶芳(アニタ・ムイ)は重病に倒れて明日をも知れぬ身だった。チャン・イーモーは、アニタの回復を信じて朗報を待っていた。
だが、その希望もむなしく、アニタ・ムイは亡くなった。(12月30日)

地球なんて、ずっと恐竜が住んでいたんだ。
人類の歴史なんて短いものさ。
恐竜は十数億年、何十億年も地球に君臨していた。
20メートルとか50メートルの恐竜が空を飛んでいた。
宇宙の中のこの小さな地球で、映画の撮影なんて、「LOVERS」なんて、取るに足らないことさ。

映画監督、張 藝謀のことば。

チャン・イーモーは、完成した「LOVERS」(「十面埋伏」)を、梅 艶芳(アニタ・ムイ)にささげている。