竹本 祐子の絵本、「桜の花の散る頃に」を読んだとき、私は惨憺たる敗戦前後の日々を思い出していた。「貴佑」の世代にとっては、戦争は私の世代よりももっと苦しい記憶に彩られているだろう。
私自身は、「学徒出陣」しなかったが、最後の第二国民兵という兵籍に編入されて、戦争の暗い記憶を心に刻みつけている世代である。
「桜の花の散る頃に」のなかに、印象的な一節がある。
めぐりあわせで、
運がよかったと思っても、
結果として、ちがっていることもある。
運がわるかったと思っても、
よい結果にかわっていることもある。
私は、「学徒出陣」の日、神宮外苑の大スタジアムの片隅にいた。首相、東条 英樹の肉声で、英米撃滅の激励演説を聞いた。それにつづいて、すべての大学の先輩の学生たちが、小銃を担って、降りしきる雨のなかを行進してゆく。会場をゆるがす大歓呼のなかにいて、私も声をからして、「貴佑」の世代につづくことを誓ったひとり。
そして、桜の花の散る頃になると、私も、「貴佑」とおなじように、若くして死ななければならなかった友人たちのことを思い出す。なにしろおなじクラス50名中、26名が帰らぬ人となったのだから。
竹本 祐子の「桜の花の散る頃に」は、私にとっても痛切な思い出が重なっている絵本だった。 (2)
☆注 竹本 祐子著、「桜の花の散る頃に」¥1600
(郷土出版社/〒399-0035 松本市村井町北1-4-6
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