やっと『アナイス・ニン作品集』が出た。私の編訳、『ガラスの鐘の下で』(響文社/2200円/05.11.15.)である。
装幀と、短編全部に山本 直彰さんの絵を小さくカットふうに使わせていただいた。山本さんは国際的に知られている画家である。
まだ製本の段階に、「響文社」の高橋 哲雄さんが製本所に飛んで行って、できあがったばかりの見本をすぐに私に送ってくれた。お互いによろこびあう。なにしろ、待ちに待った出版なのだから。見本が出たのがたまたま私の誕生日だったので、なによりのお祝いになった。
『アナイス・ニン作品集』には、訳者たち、エッセイを寄せてくれた人たち、造本にかかわった装幀者、デザイナー、出版社の人たちのたいへんな努力が隠されている。
一冊の本が出るまでに、どれほどおおぜいの人の辛苦が重なっているか。たいていの読者はそんなことを考えない。芝居の観客は、舞台の役者たちだけを見て、裏方や、大道具方、照明、衣裳部のおばさんたちのことを考えない。それとおなじことだろう。
だが、私の読者たちに、ぜひ知ってほしいことがある。
まるっきり無名だったアナイス・ニンは、自分で活字をひろって、自分で印刷機械にかけて、わずかな部数の本を出した。部数、300部。
それが『ガラスの鐘の下で』なのだ。