明治の人はよく手紙を書いた。子規、漱石の書簡は文学史に光彩を放っているが、一葉の書いた女子手紙の模範文などを読むと、明治という時代の息吹きまでつたわってくる。
ジッド/マルタン・デュガールの往復書簡や、コクトオ/ジャック・マリタンの往復書簡や、キャサリン・マンスフィールド、D・H・ロレンスの手紙を読むと、芸術家のエスプリにじかにふれるような気がする。
最近の私は手紙を書かない。年賀状も出さなくなった。さして理由もないのだが、面倒なせいもある。つまり、手紙を書く余裕がない。それでも、知人に手紙を出すときは、かならず自筆で書く。ワープロの手紙をもらって、しばらくして読み返そうと出してみたらほとんど読めなくなっていた。
親しい友人に手紙を書くのは楽しい。心のなかでその相手を思いうかべながら手紙を書いたほうが、電話やインターネットと違って自分の正直な気もちが届くような気がする。
作家志望者は、できれば自分の尊敬する作家の書簡集を読むといい。
いい文章修行になる。