電話の会話。
モシモシは別として、アノネ、フンフン、ソウソウ、アハン、フッフッフ、エート。
これも、「テ」または「テェ」でやったら、ずいぶん楽になる。
A ね、きみ。きみって、もっと背が高くって、やせた人かと思ってた。
B テェ?
C ……あなたは、写真で見た通りの方ですわね、ほら、この前の週刊誌の。
B テェ。
A いくつぐらいだろう。(Cに)いくつぐらいに見える?
C ……そうね、二十、二、三かしら。
B テ。
むろん、外国人相手にこの「作戦」は使えない。
相手はこちらの話にじっと耳を傾けて、こちらの話が終わるまで黙ったままだったりする。相手が話しているあいだは口を挟まないのがマナーだから。
こちらは相手の顔が見えないので、話が通じているのかどうか不安になる。
私は、ときどき、あいづちをうったりして、会話をなんとかスムーズに進めようとする。むろん、こちらが、流暢に会話ができないのをカヴァーしようとするためである。
ふと――旧ソヴィエトのことを思い出した。
1978年、私は旧ソヴィエト作家同盟の招待で、ロシアに行った。
(つづく)