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映画、「アーテイスト」を見たせいか、昔の女優を思い出した。ただし、サイレントの女優ではない。「戦後」の、しかも、ほとんど無名の女優ばかり。

ニナ・フォッシュ。たいへんな美人だった。(ただし、あくまで個人的な意見。)
オランダ、ライデン生まれ。母はコンスェロ・フラワトンというラテン系の女優。父は、オランダでも有名なオーケストラの指揮者。ニナ自身も、コンサート・ピアニストとして、リサイタルをやるほどの実力があった。
これほどの女性なら、なにも映画に出なくてもいいのだが――「巴里のアメリカ人」に出ているから、ビデオや、DVDで、私たちはニナの美貌に接することができる。ほかに「血闘」、「君知るや南の国」といった映画に出ていた。こちらは、ビデオ化、DVD化されているかどうか。

「重役室」という映画では、社長秘書の役で、ジューン・アリソン、バーバラ・スタンウィック、シェリー・ウィンタースなどといっしょに出ていた。彼女たちは、いずれも大スターになったが、ニナは、やがて消えてしまった。

どうして消えてしまったのだろう?

リタ・ガム。
この女優は、日本ではほとんど知られていない。
ピッツバーグ生まれ。ブロードウェイの舞台から草創期のTVドラマで認められ、Hollywood 入り。私は、何かの映画で見て、その美貌に驚いた。
しかし、この女優も、消えてしまった。

そんな女優は、ほかにもたくさんいる。
その大多数は無名だし、クレジットに出た名前も、もうおぼえていない。
ニナ・フォッシュのような美人にかぎらない。

「スティング」で、ロバート・レッドフォードが、毎晩、食事に立ち寄る、安食堂の、しがないウェイトレス。ロバートは、このくたびれた中年のオバさんと一夜の契りをかわす。翌日、人けのない裏通りで、小綺麗なファッションに着替えたオバさんが、彼に歩み寄ってきて、主人公を狙撃する殺し屋になっている。
この女優さんは、ほんとうにすばらしい。だが、「スティング」以後、一度も見たことがない。彼女は、私の好きな女優のベスト・テンに入る。

「ウォリアーズ」で――深夜のセントラル公園からブロンクスまで、少年たちが必死に逃げようとしている。途中の公園のベンチに、若い女がひとりで腰かけている。少年の一人が、その女をモノにしょうと話しかける。女のからだに手をかけた瞬間、少年の手首に手錠がかけられてベンチに繋がれる。この女性刑事は凄い迫力があった。
この女優さんも、その後、見たことがない。

私の心のなかに、こうした女優の面影が焼きついている。AV女優にも、ほんの二、三人、そういう女がいる。むろん、名前も知らない。