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古本屋を歩く。二週間に一度は古本屋歩きをつづけている。
「およそ本屋の数の多い事にったら、東京の神田本郷に及ぶ所は、世界中何処の都会を歩いても決してない」という。長谷川 如是閑の『倫敦! 倫敦?』(明治43年)にそう書いてあるが、いまの神田、本郷はすっかり様変わりしてしまった。「本屋の数の多い事」はたしかだが、スキー用品の店や、ファストフード、ビデオ、DVDショップがふえて、店の隅っこで思いがけない掘り出し物を見つけて狂喜することもなくなった。
神保町で植草 甚一さんの姿を見かけたときは、その日の収穫はない。めぼしい本は、みんな植草 甚一さんが先にあさってしまうからだ。
植草 甚一さんは私を見かけると、近くの喫茶店に誘うのだった。買ってきたばかりの本を楽しそうにご披露しながら、その内容、著者の経歴などを説明してくださる。
おかげでこっちもその本を読んでしまったような気がして、つぎに別の場所で見つけてもおなじ本は買わなかった。