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 私は、毎日、近くのスーパーに食料品を買いに行く。
 夕方、買物に行くと、ほとんどかオバさんばかり。

 近くのデパートで、「九州物産展」とか「北海道展」と銘打って、その土地の生産品を売る。
 先日、あるデパートでやっていた「北海道展」に行って見た。

 デパートの8階が催事場になっていて、エレベーターなら直通だが、エスカレーターは7階まで。ここから少し歩いて、8階に行く別のエスカレーターで移動する。
 このエスカレーターを利用した。

 上からエスカレーターで下りてきた中年のオバさんが、すれ違いざま、ひとりごとをいった。
 「5時だよ」
 私に語りかけたわけではない。一瞬つぶやいただけで、下りて行った。それだけのことだったが、「北海道展」にやってきたオバさんが、時間を気にしながら買い物を終えて、ほっとしたのだろうと思った。

 催事場に行ってみた。ほとんどの店は展示品を片づけて、台に白いシーツがかけてある。奥のほうに、二、三、まだ残った商品を片づけている店があった。
 そんな店に寄って行った。売れ残りのシューマイがあった。
 「これ、下さい」
 店のオバさんは、私の風態を見て、300円もまけてくれた。

 ここまできで、はじめて気がついた。

 こういうデパートの物産展は、終業時間近くになると、日もちのしない食品の値をさげるのだった。わざわざそれを目当てにくる客もある。さっきエスカレーターですれ違ったオバさんは、私をそんな客のひとりと見たに違いない。
 あんた、せっかくなのに、もう5時過ぎだから「北海道展」はおしまいよ、という意味だったのか。
 値下げをめあてに駆けつけたオジイさんと見たのだろう。

 私は、エスカレーターですれ違ったオバさんの親切がうれしかった。同時に、「北海道展」のおしまいになって値下げをめあてに駆けつけたオジイさんに見えたのだろうと思うと、おかしかった。まあ、老残の身だから、他人がどう見ようと関係がない。

 外に出ると、さむさがいっせいに押し寄せて来たが、宵闇があたりにひろがっていながら、未だ明るさがただよっている。こういう瞬間が私の好きな時間だった。
 少年時代から、暮れなずむ瞬間の風景に、なぜか心を惹かれるのだった。

 シューマイはおいしかった。