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最近の私は、前に読んだがあまりよくわからなかった本や、若いときに一度読んだきりで忘れていた本を読み返している。

たとえば、エリザベート・バダンテール。
私にはどうもむずかしい本だが、彼女の論理のしなやかさに魅力があった。読んでいるうちに、ときどき反論したくなって、彼女の論理をたどり直すのだが、彼女の説得力たるやたいへんなもので私の反論の余地などあり得ないような気がしてくる。現実にこういう頭のいい女性に出会ったら、私などは逃げ出すだろうな。

そして、若い頃読んだ作家だが――フィリップ・エリア。

この作家はもともと誰も知らないだろうが、ゴンクール賞を受けた作家で、私はこの作家と夫人のエレーヌ・エリアが好きだった。
日本では翻訳もない作家だが、戦後のフランス文学の紹介が、どんなに狭いものだったか。結果として、日本ではフランスの現代文学は、ヌーヴォ・ロマン以後、殆ど読まれなくなってしまった。 残念な気がする。

昨年の暮れ、岸本 佐知子から、ジョージ・ソーンダーズの「短くて恐ろしいフィルの時代」(角川書店)を贈られた。
この本はお正月のたのしみにしていたのだが、やっと、初雪(例年より17日も遅かった)の日に読んだ。これまた、じつにおもしろかった。
岸本 佐知子は、その前に、ショーン・タンの絵本、「遠い町から来た話」(河出書房)を訳していて、翻訳家としてあたらしい分野に乗り出しているように見える。

最近の私はめっきり本を読むスピードが落ちた。だから、ちょっと前に読んだ本や、若いときに読んだだけの本を読み返している様なものだ。

先輩の白井 浩司(フランス文学研究者)が、晩年、ジャック・ド・ラクルテールを読み返してエッセイを書いていた心境が、なんとなく分かるような気がする。