映画、「アウトサイダー」は、昭和58年(1983年)8月27日に公開された。
主演は、C・トーマス・ハウエル、マット・ディロン、ラルフ・マッチォ。まだ、ティーネイジャーだったダイアン・レインが出ている。
場所は、オクラホマ、タラサ。
この都会の貧民街の少年たちは、髪の毛をコテコテにポマード(グリース)でかためる「グリース」と呼ばれている。彼らは、上流の「ソッシュ」と呼ばれるグループと対立している。「グリース」のひとり、「ジョニー」(ラルフ・マッチォ)は、ケンカの相手をナイフで殺してしまう。リーダーの「ダラス」(マット・ディロン)は、山奥の教会に逃がしてやる。だが、この教会が失火で全焼し、「ジョニー」は病院で死ぬ。
「グリース」のリーダーの「ダラス」は、「ソッシュ」に襲われて死亡する。
この「ソッシュ」のひとりに、後年、スターになるトム・クルーズが出ていた。
映画会社は、「アウトサイダー」を夏休みの期間中に公開しようとしていたらしい。逆算すると、翻訳をしあげるまで、時間的な余裕がなかった。すぐにも翻訳にかからなければ、公開前に出せない。なにしろ時間がないので、映画の試写も見なかった。
「富士通」に頼んで、「山ノ上」にワープロを届けてもらって、私はひたすら翻訳に没頭した。私の訳は公開直前に出たが、書店の棚にすでに別の出版社のハードカヴァー本も平積みになっていた。
私はその翻訳家の手になる「アウトサイダー」を手にとって、書き出しの部分を読んでみた。さすがに、流麗で読みやすく、みごとな訳だったが、全体におしとやかで、典雅な訳になっていた。
なにしろ私の訳は、少年鑑別所に「ネンショウ」とルビをふるような訳なので、まるっきり別の作品の訳のように見えた。当時の「コバルト文庫」編集長は私の訳を読んで、これではまるでハードボイルド小説じゃないか、と青くなったという。
それでも、私の訳した「アウトサイダー」はかなりいい成績をおさめた。
このYAシリーズの成績は、大きなバラつきがあって、私のS・E・ヒントン以外では、売り上げ部数がわずか数百部という、惨憺たる成績のものもあって、30冊ばかり出したあとでこのシリーズは打ち切られてしまった。
坂崎 倭、竹本 祐子、羽田 詩津子、中山 伸子、矢沢 聖子のように、このシリーズの翻訳がきっかけで翻訳家として有名になった人も多い。
今の私は、「アウトサイダー」を訳していた時期はおもしろかったな、と思う。
北上 次郎のエッセイを読んだおかげで、忘れていたことをいろいろと思い出した。
「アウトサイダー」が出たときから、「ヤングアダルト」ということばが定着したのではないか。