オノト・ワタンナを読みたいと思った。アメリカン・ジャポニズムの女流作家である。
読みたかった理由は、若き日の永井 荷風がオノト・ワタンナの『ヒヤシンスの心』を読み、「文章清楚にして情趣まま掬すべきものあり」と批評しているからだった。
二十年探しつづけたが、神田でやっと一冊、手に入れた。実際に読んでみると、どうにもあまったるいお話で失望した。それっきりこの女流作家のことは忘れた。
去年から、私は「文学史」めいた講座をはじめた。当然、永井 荷風もとりあげたが、このとき、もう少しオノト・ワタンナを勉強してみようと思った。それを知った井上 篤夫がわざわざ『おウメさん』を探してくれた。十九世紀末の作品で、永井 荷風はおそらくこの作品も読んだのではないだろうか。
最近、アメリカのジャポニズム小説について羽田 美也子のすぐれた研究が出た(彩流社/05.2)。ほかにも少数ながら、研究者があらわれているという。そうした研究者たちの努力に敬服している。